パチンコCGのこと3・2Dとか3Dとか


※画像は関係ありません。今日、錦糸町のパチンコイベントの帰りにヨドバシ寄ったら普通に買えました。


前回の記事では、「VDP」というパチンコの液晶表示に使われる機器について取り上げました。


繰り返しになりますが、パチンコでは未だに2Dによる映像表現が中心です。
※スプライト、実写、プリレンダームービーなど。


ゲーム機ではPS、SSの時代から使われてきたリアルタイム3D表示も、パチンコにおいては、マイナーな表現に留まっています。

映像の美しさがとにかく重視される最近のパチンコにとっては、リアルタイム3Dを用いる利点よりも、映像クオリティを最大限まであげられるプリレンダームービーのほうがユーザーにも受け入れられやすいようです。
また、入力によるリアルタイム性が、パチンコという抽選のゲームにそれほど寄与しない、といった理由もあります。


しかし、3Dの映像表現が、このままマイナーな表現に留まるか、というとそうではありません。
3Dに特化したVDPを使うことによる利点もまたあるのです。


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最近のパチンコでは、大量の画像データやムービーを格納するROMのサイズが、16Gbit〜32Gbitといった膨大な容量になっています。

※このROMのことを「CGROM」とか「キャラROM」とか言ったりします。
※一昔前は512Mbit〜1Gbitくらいが普通でした。
※メモリの容量はbitで表記しますので、byte換算するとその1/8程度になります。16〜32Gbit=2G〜4Gbyteなので、だいたいDVD程度の容量だと思ってください。


プレイヤーの目もどんどん厳しくなっているため、パチンコの映像はより美しく、よりボリュームが求められるようになっています。
そう、ゲームがいつか来た道。重厚長大化ですね。(むしろゲームは今のほうがHD機になって、よりその傾向が強いかもしれないか…)

もちろんROMが大きくなればなるほど、大量の画像やムービーデータを格納することもできるのですが、搭載するROM容量が増えれば、それは機種の値段に跳ね返ってきます。
プレイヤーにはあまり関係ないように見えるかもしれませんが、値段の高い機械はホールも買いづらいですし、その機種代金を回収するためには、ホールが辛い営業をするということも考えられます。

また、大容量のROMに見合う映像を作るためには開発にも人と時間がかかり、これも間接的にコストとなって機種代に上乗せされます。

※パチンコの開発中にはROMを何度も焼いては検証し…ということを繰り返すのですが、大容量ROMだと、この「ROMを焼く」という時間も尋常でなかったりして、開発の足かせになったりします。直近の案件がまさにそうでした…余談ですが。


ROM容量が小さいと、なかなか大量の画像やムービーを使用することは出来ません。
それは演出のボリュームにも直結するので、出来れば大容量ROMを使いたいのですが、前述のようにコスト面などで問題が出てきます。

今後もより美しい映像、演出のボリュームをさらに要求されることは容易に想像できますが、その度に、容量を64G、128G…と増やしていく訳にはいかないでしょう。


この、コストとROM容量のバランスをうまく解決する方法はないのでしょうか?


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実は、今から7年も前に、それに一つの答えを提示してくれた機種があります。
2003年に登場し、液晶映像にリアルタイム3Dを使用したサミーのスロット機、北斗の拳(以下「北斗」)です。


北斗は、当時サミーの子会社としてセガを抱えていたなどの理由もあったと思いますが、VDPとして、ドリームキャスト互換の基盤を使用していた、と言われています。

※他に、ゲーム機をVDPに転用した例としては、PS2基盤をベースにした山佐の鉄拳やリッジレーサーなどがあります。いずれ、PS3をベースにしたVDPが出てくる可能性もありますね。


こちらが、北斗の液晶画像です。

今の時代を基準に見ると、はっきり言ってテクスチャもポリゴンも荒く、ジャギー出まくり(駄洒落ですww)の汚い画面なのですが、それは時代だから…ということで目を瞑ってください。

なぜここで北斗を例として取り上げたのかというと。北斗は、リアルタイム3Dの利点をうまく活用して、少ないROM容量でも、演出ボリュームを当時最高峰の水準で作り上げたのです。


勘違いされていらっしゃる方も多いと思いますが、リアルタイム3D描画で用いるポリゴンデータは画像ではありませんので、データはとしては、プログラムROM側に読み込まれます。
また、ポリゴンデータは単純な頂点座標データの集合のため、特に、PS〜ドリキャス時代のようなローポリを用いた場合はデータ量が非常に軽いです。

もちろん、ポリゴンデータだけでは絵は作れないので、ここにテクスチャデータやモーションデータの容量が上乗せされるのですが、テクスチャデータは、フルカラーではなく256色、16色を上手く使えばデータ量も描画速度も稼げます。
モーションデータも、データの作り方を工夫すればかなり軽くなります。(下手にやると重くなります。全フレームキーを持ったりとかすると…)

3Dを用いる利点はデータ自体の軽さだけではありません。

例えば、キャラクターの動きを追加したいときは、同じキャラクターに異なるモーションデータを読み込めばいいですし、テクスチャデータを差し替えれば、肌の色や服装、あるいは顔のテクスチャを変えて、異なるキャラクターにすることも出来ます。
骨の構造を複数のキャラクターで同じにしておけば、異なるキャラクター間でモーションを共有することすら可能です。

この組み合わせは、少ないデータ量でも無限に広がります。


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これが2DベースのVDPの場合だったらどうでしょうか?

演出を増やすとなると、2Dのアニメ素材の描き起こしなど、大変な労力を伴いました。
また、大量のアニメーションパターンは、どうしてもROM容量を圧迫してしまいます。

ROM容量が少なく、2Dしか使えなかった時代には、背景の色がパレットチェンジで変わるとか、他で使用している素材を複数の演出で流用するなど、言葉は悪いですが小手先の技で演出数を稼いでいたのです。

※このへんの手法も、最初僕がパチンコに馴染めない部分でした。背景の色が変わったから熱い!とか言われても、正直、それが何?とか思ってたし。今となっては、それはROM容量が少ない時代の、制作側の苦渋の手段だったんだな、と分かります。


北斗は、こういった2Dベースの手法がメジャーだった時代に、

  • ポリゴンデータ使用による画像ROMの使用量削減。
  • バリエーション追加の容易さを生かした演出数のボリュームアップ。

を実現し、見事、その時代を代表するヒット機種となったのです。


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北斗が売れた理由は、出玉スペックや原作を生かしたゲーム性など、いろいろあると思いますが、これまでには考えられなかった演出数、ボリュームを、3Dチップをうまく用いることによって実現できたことが、非常に大きいと思います。

唯一、北斗で実現できなかったのは映像そのもののクオリティの追求でしょうか。
お世辞にも、その当時ですら、きれいな映像だとは言えませんでした。

しかし、大容量ROMを使用できる現在であれば、北斗のように3Dの利点を生かして、なおかつ映像のクオリティ的にも満足できるものが作れるのではないでしょうか。

少しずつではありますが、3DベースのVDPを使用した機種は、着実に増えてきています。
僕自身も、ゲーム開発ではリアルタイム3Dをメインに扱っていたため、非常に楽しみなところです。

(了)


※ちなみに、北斗は僕が業界に入って始めて大勝ちした機種でもあり、非常に思い出深く好きな機種なのです。

※このあたりの北斗の開発秘話については、漫画化されてたのを見た記憶があるのですが、現在、検索しても見つけられません。ご存知の方いらっしゃるかしら。